ニッケルの鉱石の産地 サドバリー
ニッケル硬貨のモニュメント
直径4kmの隕石が衝突した サドバリー
サドバリーは18億3,600万年前に直径4kmの隕石が衝突し、長さ60km、 幅30km 、深さ10kmの隕石孔ができました。
また隕石の衝突で地殻がえぐられ、湧き出した内部のマントルと溶融して広範囲のニッケルや銅の鉱床をつくりました。
サドバリーの場所
サドバリーは北米大陸の5大湖のひとつヒューロン湖の北東部にあります。
トロントからはおおよそ390km。所要時間は車で約4時間半程度で飛行機や列車でも行く事が出来ますが、 地平線がどこまでも続く美しい風景を眺めたり、
道路沿いに露出する岩石を楽しみたい場合は自動車がお勧めです。
自動車での行き方。
(1)TorontoからHWY400をBarrieまで北上 (2)Barrieの少し先に二股になっていてまっすぐ行けばHWY11となりHuntsVilleやNorth Bay方面になります。右車線を走ると陸橋になり西方向へ分岐するので、そのまま進むとParrySound方面になります。
(3)ParrySoundから道なりに進むとHWY400はHWY69に名前が変わります。フレンチリバーの橋を渡って、さらに進んだらSudbury に到着します。
地図の中の右下の+、-ボタンで拡大と縮小をするとSudbryの位置が見えてきます。
サドバリーまでの道
カナダ最大の都市トロントからHWY400を北北西に進むとバリー(Barrie)から西へ、パリーサウンドへ向います。
下の写真のように変成岩の固い岩の壁がずっと続きます。 固い片麻岩の掘削して道路ができており左右や道路中央にはいろんな模様をした大きな岩盤があります。
パリーサウンドの港の10億4,500万年前の黒色片麻岩。
この辺りの大地はグレンビル造山運動と呼ばれる大陸同士がぶつかって出来た片麻岩やミグマタイトが多い地域です。
ミグマタイト:変成岩と火成岩が混在して見られる岩石の総称。一般に苦鉄質な部分が暗色部で、
珪長質な部分が明色部です。変成岩である片麻岩と火山岩である花崗岩の中間に位置づけられる岩石。
パリーサウンド付近の片麻岩の小石
片麻岩の褶曲構造
風化した黒色片麻岩(上の写真の壁の転石)
石英や長石より黒雲母が多い部分がかなり早く風化します。
固い片麻岩の横臥褶曲
大陸同士が衝突する巨大な力が理解できます。
サドバリーの町
トロント方面から続いた道路HWY69は、町の南東部でHWY17(トランス カナダ ハイウエイ)と交差しますが、
直進して次の交差点を右折(Paris道路)すると、6kmほどでサドバリー中心部に到着します。
町は隕石孔の外側、隕石孔中心より南東にあり、硬い岩が露出した場所が多いのですが林や湖も多く、綺麗な場所です。
町の中心部から東西に伸びるKingsway通りがメインストリートです。
この通りを東へ行けば、空港方面の86号線(FalconBridge通り)とKingsway~HWY17に道路が分かれています。
西へ行くと道路は144号線となり、隕石孔の中心部のChelmsfordや隕石孔の外周部OnapingやLevackへと続きます。
サドバリーは1856年に鉄道工事の最中に偶然に銅が発見され、その後はニッケルの鉱床が見つかって世界的な鉱山の町になりました。
Science North サイエンスノース
サイエンスノースは、サドバリーの南側で80号線の東側 RamseyLakeのそばにあります。 Incoのニッケルの坑道の模型や植物と蝶の温室、恐竜の骨格模型などを展示しています。
ここでは昆虫や動物に触れたり、簡単な実験や顕微鏡でミクロの世界を見ることが出来て子供から大人まで楽しむ事ができます。
Dynamic Earth/Big Nickel ダイナミックアース/ビッグニッケル
サドバリーの町の南西部 ニッケルの会社 IncoのCopper Cliff North鉱山の敷地内にあり、
鉱山の見学ができます。それと隕石の衝突で出来た鉱床の説明も展示されています。
鉱山の見学コースはヘルメットを被りエレベーターで立坑を降ります。
現在は使っていないIncoの坑道を歩いて進みますが、掘削機や鉱石運搬車、構内休憩室などがあり、ニッケル鉱石掘削の様子を見ることが出来ます。
見学の間にダイナマイトを使う体験があるのですが、ガイドの女性の緊張した合図と共に見学者全員が遠くに走り、すぐに座り込み、
耳をふさいでダイナマイト爆破の模擬体験をします。
ガイドの案内は、表情豊かでユーモアがあり大人も子供もとても楽しんでいました。
見学コースの最後には土産店に入るようになっていて、たくさんのお土産を見て買って帰えれるような仕組みになっているのでした。
ダイナミックアースは小高い丘の上にあり巨大な5セントニッケル硬貨が目印です。(下の左の写真)
周りにはニッケルを精錬した後の鉱滓が大きな平らな山となって積まれているのがよく見え、
鉱石の膨大な産出したことが想像できます。
空高く伸びる煙突はサドバリー郊外からも見えますが、日本からトロントへ向かう飛行機から見える事があります。
サドバリー隕石孔
サドバリー隕石孔はおよそ18億3,600万年前に直径4kmの隕石が衝突してできました。
長さ60km、幅30km、深さ10km。当初は直径150~200kmの円形でした。楕円形をしているのは衝突後に古大陸同士の衝突があり地殻変動によるものです。
サドバリー隕石孔の地質平面図
サドバリー隕石孔の断面図
Superior Province 北西部のオレンジ色の部分
隕石孔北西部~隕石孔基底部分に分布
衝突以前から存在した花崗岩や片麻岩類
(31~25億年前)
Footwall Breccia 黒い部分 隕石孔外周部
Suevite (衝撃で破壊された岩屑の角礫岩Brecciaの総称)(18億3,600万年前)
Sudbury Igneous Complex 薄いグリーンの部分 隕石孔底部及び内周部
サドバリー火成複合岩体
溶融した岩石が深部から湧き上がり、
隕石孔上部を同心円状に満たしている構造で
地上より10km下部までを満たしています(18億4,900万年前)
Creighton Pluton 白地に+の部分
クレイグトンマグマ深成岩体(23億年前)
Whitewater Group 紫の部分 隕石孔のもっとも内側の部分
隕石孔が冷えた後の湖の時代の堆積岩類
Chelmsford 層 Onwatin 層 Onaping層(*)で
構成されます。(18億3,600万年年前)
Houronian SuperiorGroup 黄土色の部分
南東部衝突以前から存在した堆積岩、火山岩類
(24~22億年前)
Grenville Province 緑色の部分
グレンビル地質区片麻岩類(11~13億年前)
***(注)Onaping層 (Onaping Formation)***
1965年頃、北東部から流れるVermilion River の Onaping High Falls付近の地層は、隕石衝突直後に飛び散って落下した角礫岩と
その1部が溶けた単一の層だと考えれれていましたが、その後の研究で4つの単層で成り立っていることがわかりました。
4つの単層の上下関係
上部 Black Member
中部 Green Member
下部 Gray Member
最下部 Basal Member
[ Footwall Breecia (隕石孔外周部)地域の模式断面図 ]
図は隕石孔の外周部北西の鉱山町 Levack を例にしたサドバリー地域の模式断面図で、赤い部分が鉱体です。
鉱山は、隕石孔外周部 Footwall Breccia 地域や、内周部の Sudbury Igneous Complex の内側に多く、
角礫岩体に包まれる形で多くの鉱体が存在し、広大な露天堀や深い立坑から採掘をしています。
Levackはサドバリーの町から144号線を北西に進み、 Onaping から右に曲がって8号線を進みます。
鉱山が多い町です。
Breccia
Levack(隕石孔北西の黒い部分)の町にあるMc Creedy鉱山産の角礫岩。
Breccia 拡大
144号線沿いの露頭 Levack 角礫岩1
隕石衝突の衝撃で破壊され飛び散った岩屑が、溶融している地上に落ち冷えて固まった岩石。
144号線沿いの露頭 Levack 角礫岩2
Igneous Conplex (サドバリー火成複合岩)の構成岩石
Granophyre(文象玢岩)
浅い深度で結晶化した貫入型岩石で、多くは花崗岩と同様の組成を有する岩石
(文象玢岩)の拡大写真
紫蘇輝石を含む斑糲岩
Sudbury Igneous Complex の基底部に存在し、
衝突が引き起こした厚み500mの単一の溶融シート。
上の写真Norite の拡大写真
隕石孔が湖になった時に堆積したWhitewater Group の岩石
丸い部分はジプサム(石膏)です。
Onaping層 下部層 Gray member
Onaping層 Gray member の拡大写真
Onaping層 Back member
Onaping層 Back member
Onaping Formation
Onaping Formation は地球では珍しい地層だったため、NASAは1971年の夏にアポロ16のクルーを、
1972年にはアポロ17のクルーをOnaping High Fallsエリアに送りました。
彼らは地質学的特徴を研究し、月と類似のシャッターコーン、灰色や黄色の角礫岩、それに溶融した岩から、
Onaping Formationが隕石孔の特徴をなす地質である事を発見しました。
NASAのクルーのOnaping Formationへの正しい見解は、Sudbury Igneous Complexの成因と、
局部的な亜鉛、鉛やニッケル、銅の熱水作用による鉱体の解明に非常に重要なものとなりました。
Onaping High Fall
サドバリー隕石孔の見解
サドバリーの盆地状構造は大きな火山クレーターと考えられてきましたが、
1964年 R.S.Dietz は直径4kmの巨大な隕石起源であると提唱しました。
彼は Footwall Breccia の分厚い角礫岩層、衝撃を受けた岩石の存在、溶融した岩が Igneous Complex を形成した事、
加えて、その後クレーターは水と堆積物( Whitewater Group )で満たされた事をもとに主張しました。
隕石によるクレーターである証拠について
ShatterCone シャッターコーン
頂点から放射状に条線のある円錐形の岩
隕石の衝突との結びつきで良く知られ、隕石の衝突で破壊された小さな石粒が岩石にぶつかって出来るものです。
Pseudotachylytes シュードタキライト
ガラス状の岩石で隕石の強大な衝突が岩石を摩擦溶融し、その後に急冷してできた岩石。
Shocked quartz crystals ショックド・クオーツ・クリスタルズ
一瞬で起きる強力な衝突の圧力が岩石中の石英に短時間で衝撃を与え、十字形の溝を作ります。溝幅3mm程度
楕円形の隕石孔について
カナダの他の隕石孔は円形ですが、サドバリー隕石孔は楕円形です。
これはPenokean造山運動(18億年前)の影響を受けたもので、南東部 HouronianSuperiorGroup(堆積岩、火山岩)が隕石孔を押し込み、円形だった隕石孔が楕円形になりました。
サドバリーの主要な鉱山と生産物
Inco ( International Nickel Company )
ニッケル、銅、コバルト、金、銀、白金族、硫酸、テルル、
二酸化硫黄
Falconbridge Ltd.
ニッケル、銅、コバルト、金、銀、白金族、硫酸
First Nickel Inc.
ニッケル、銅、コバルト、金、銀、白金族、硫酸
FNX MiningCompany Inc./ Dynatec Corp.
ニッケル、銅、白金族
Levack の町にある FNX MINING CMPANY のMcCREEDY WEST 鉱山
McCREEDY WEST 鉱山
Levack のxstrata ニッケル鉱山
Levack の町を走る鉱石運搬列車の線路
Levack にある FNX の立坑
ニッケル鉱石
Chalcopyrite=黄銅鉱CuFeS2(硫化銅)、Pentlandite=ペントランド鉱(Fe,Ni)9S8(硫化ニッケル、硫化鉄)、Pyrrhotite=磁硫鉄鉱FeS(硫化鉄)で構成されています。
この鉱石は隕石の衝撃が引き金となり硫黄を多く含んだマグマから生成されました。
19世紀後半までニッケルは銅鉱石の精錬には邪魔なものと考えられていましたが、
1891年Orford Copper Company が鉱石からニッケルを取り出す事に成功し
1902年にはIncoが量産化しました。
後書き
隕石衝突の痕跡は世界中で多く見られますが、38億~46億年前の時期に集中していました。
それは太陽系が他の惑星系のそばを通った時期であり、惑星系は太陽系の外縁部の小惑星帯に引力の影響を与えました。
互いにぶつかったり移動を始めた小惑星は太陽に向いました。
多くの小惑星は地球に衝突する前に大きな重力を持つ木星に引っ張られバラバラになったり、木星にぶつかりましたが、
木星の影響を受けなかった小惑星は地球にぶつかって生命の源になる物質をもたらしたり、
繁栄した生物を絶滅させ、新しい生物群の誕生のきっかけをつくりました。
サドバリーの場合は衝突により地球外から持ち込まれた特殊な岩石と地殻の溶融で新たな金属資源をつくりました。
映像はコッパークリフノースです。ダイナミックアースから撮影しましたが、広大なIncoの敷地に巨大な煙突や膨大な量の精錬後の鉱石の山が見えます。
ニッケルはステンレス材料に3~15%の割合で使われており、50円や100円硬貨は銅とニッケルの合金です。 サドバリーのニッケルは世界中のステンレス生産に大きな役目を担ったことでも有名です。
下の動画は、サドバリーの煙突があるコッパークリフ・ノースを動画で撮影しました。
音量が大きいかもしれないのでお気を付け下さい。
サドバリーや町の近郊は、道路の左右に多くの露頭がありましたが車を止めるには危険でした。それでも車窓から見る地層の断面は飽きる事のない表情をして、広く深い地質史を物語っていました。サドバリーに限らずカナダは道路は露頭が多く、褶曲や断層、化石層などが続く場所があります。 そんな場所を地質的な事を中心にこれからも紹介できたら、と思っています。
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